ホッキョクグマ
Ursus maritimus Phipps,1774
※Ursus=クマ、maritimus=海の
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〇基本情報
【分類】
ネコ目 クマ科 クマ亜科 クマ属

【分布】
・北極海周辺の海氷域。
・北緯90度(北極点)から
 カナダのジェームズ湾の北緯53度地点
 約4200㎞にわたる範囲に生息。
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【主食】
・アザラシ、セイウチ、ウミドリ、クジラなど。
・陸地に渡ったときには、トナカイ、木の実、
 昆布などを食べることもある。
・基本は雑食だが、極めて肉食性が強く、
 アザラシ狩りに特化した進化をしている。

〇進化
約2500万年前
・Hmicyoninae(半イヌ)と呼ばれる
 クマとイヌの中間のようなグループが原点。

約2000万年前
・ドーン・ベアーが発生。
・これが、現在知られている最古の
 クマの祖先種にあたる。
・ここから現生のクマ類へ進化。

約400~500万年前
・オーヴェルニュ・ベアーが発生。
・すべてのクマ属はここから進化。

約250万年前
・エトルリアグマが発生。
・氷期の寒さと間氷期への環境変化に適応し
 生き抜いた。

約200万年前
・グリズリーが発生。

この後ホッキョクグマが発生したことは
明らかだが、正確な詳細は研究途上。

グリズリーとホッキョクグマとで
 生殖的な隔離は不完全。

・グリズリーとホッキョクグマの間で
 交配が可能。
・交配種には生殖能力がある。

エーム間氷期の温暖化により
一部のグリズリーは北へ向かった。

アザラシなどの海洋哺乳類を捕食するように。
・天敵がいなかったので捕食しやすい。
・春先の貴重なエネルギー源となる。

アザラシなどを捕食した個体のほうが
子孫をたくさん残せた。

海洋生物の捕食が主流になってくる。

陸との切り離しが行われ、
グリズリーとの分化に至る。
海氷で海洋生物を捕食することに
特化した種へと進化。


〇形態
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グリズリーがずんぐり体型なのに対して
ホッキョクグマは流線形の体型をしている。


【被毛】

・白~淡い黄色の被毛が一番の特徴。
・長さ15㎝ほどの長く粗い保護毛と
 長さ5㎝に満たないきめ細かく密な下毛。
・保護毛の中央は空洞になっている。
 断熱と、水中での浮力のため。
・白色であることの選択圧が強いためか
 アルビノやメラニスティックの報告はない。

・子供の頃の肌はピンクだが、
 巣穴から出始めると徐々に黒くなる。
(ちなみにグリズリーの肌は一生ピンク。)

なぜシロクマなのに肌は黒いの?
有名な説に
「白い毛で光を集めて黒い肌で保温する」
というものがあるが、これはダウト。
なぜかというと、
・毛が厚く、肌まで光を通さない。
・白夜の時期はむしろ放熱機能が重要。
・寒い時期にはそもそも日がほとんど
 差さないので意味がない。
実際の理由はいまだ不明。

【体型の特徴】
・地球上で最大の肉食獣。
 大人のオス:体重800㎏、体長2,5m
 大人のメス:体重450㎏、体長2m
(※体長=鼻の先から尾骨の先まで)
 →体積が大きいほど熱を生みやすい。
  →寒さに特化

・小さく幅の狭い頭、長い首。
 →アザラシのいる穴に顔を突っ込むため。
 →泳ぐときに頭を水上に出すため。
・爪は鋭く、猫の爪に似ている。
 →アザラシを氷上に引きずり上げるため。
  →アザラシ狩りに特化

・口幅が狭く長い鼻。
 →固い植物や木の実を噛むには不向き。
 →鼻が長いほど嗅覚が鋭い。
  →狩り・肉食に特化
 →鼻腔が長い分、吸い込んだ空気が
  肺にたどり着くまでに温まりやすい。
・小さな耳。
 →寒い地域ほど突起部が小さくなる。
  →寒さに特化

・巨大な手足。
 →体重を分散させるため。
 →不安定な足場をしっかり捉えるため。
  →氷上生活に特化

〇生態
【生活史】
春:交尾
・発情したオスは嗅覚を頼りにメスを探す。
・メスは子が巣立たないと発情しないので
 遭遇したオスが連れ子を殺すことも。

初冬:巣穴にこもって出産
・これから初夏まで、メスは絶食状態で
 出産と育児を行う。
・妊娠期間は7~9カ月だが、
 交尾直後には着床しないため、
 実際には妊娠60日くらいで未熟児を出産。
(母の体重200~300㎏に対し、子は0.7㎏ほど)
・出頭数は1~3頭。
 母親の栄養状態によって変動する。
・一人っ子は生存率は比較的高い。
・双子:1年以内に30%以上の確率で片方死ぬ。
    2頭とも死ぬ確率も30%くらい。
・三つ子:全員秋まで生き残る確率は20%未満。

翌年初夏:巣穴から出て子連れで行動

親離れ
・離乳は平均2,5歳。ハドソン湾では1,5歳。
・条件が揃えば母親のほうから去る。

その後の成長
・成長の臨界点は、オス8~10歳、メス4~5歳。
・繁殖ピークは10代半ば。
・メスは5~27歳までの22年間、
 3年ごとに出産可能。

寿命
・野生化での最高齢はオス28歳、メス32歳。
・25歳以上まで生きるものはごく少数。

【行動】
・知能は高い。行動の利点と欠点を
 一度の経験から学習することもある。
・基本は単独行動。
 社会的交流は臭いを通じて行っている。
・孤独な放浪者というイメージがあるが
 実は決まった行動範囲を持っている。
(縄張りというわけではない。)
・行動範囲は200㎢~96万㎢と個体差が大きい。
 最大でグリズリーの450倍。
・毎時4kmでの移動が可能だが、
 実際にはもっとゆっくり移動することが多い。
・1日あたり14㎞~18㎞あたり移動するが、
 これもやはり個体差が大きい。

頭を突っ込みたがるホッキョクグマたち
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いろんな動物園で目にする、
穴に頭を突っ込んだり
被り物をして遊んでいるホッキョクグマ。
おそらく、アザラシの穴に頭を突っ込んで
獲物を探す習性から来る行動。
狩りをしなくても、本能的な行動は残る。

〇ヒトとの関係
【絶滅の危機】
絶滅危惧種に指定されている。

1950~60年代:狩猟による脅威
・古くは、主に毛皮や食料として。
・法律により狩猟数が規制された今でも
 年間1000頭が狩猟により命を落としている。
(1000頭=世界中のホッキョクグマの4~5%)

1970~90年代:汚染による脅威
・残留性有機汚染物質、重金属、放射性物質が
 海流や渡りをする動物などによって
 北極まで到達している。
・食物連鎖の頂点に立つホッキョクグマは
 汚染の影響を受けやすく、出頭数の減少や
 発育不全などの兆候が見られている。

1980年代~:観光による脅威
無知な観光客が餌をやる、写真撮影のため
近寄りすぎるなど。
→餌を求めて人里に近づくようになる
 →行動に影響を与える
 →射殺せねばならない場面が増える

近年:開発による脅威
・天然ガスや石油、鉱業による掘削など。
→原油による汚染、環境の変化。
・資源運搬用の道路ができたことから
 交通事故で死ぬ個体も出ている。

☆従来のヒトとの距離が縮まることで
 環境や行動に変化がもたらされている。


【地球温暖化】
地球温暖化はデマだ、との説もあるが
実際に海氷の消失は進んでいる。

海氷の減少から、陸に渡る個体が増える。
→グリズリーとの生存競争
→もともと陸上のものを食べるのに
 特化していない
 →体重の減少→出頭数の減少
→グリズリーとの交配種が増える
 →純粋なホッキョクグマの減少

☆今世紀半ばまでに、今いる数の2/3が
 いなくなると予想されている。


【保護団体】
Polar Bears International
ホッキョクグマ保護のために、
現状や正しい知識を発信している団体。
寄付も可能。英語サイト。

WWFジャパン
野生動物の保護のみならず
環境保護、自然保護に力を入れている
国際的な団体。
地球温暖化防止にも取り組んでいるので
ホッキョクグマの保護とも
密接に関係している。

〇まとめ
極地の環境と狩りに特化した、
魅力的な肉食獣、ホッキョクグマ。
しかしヒトの手が極地にまで達し、
今では絶滅の危機に瀕しています。
ヒトの暮らしの発展も大切だし、
今すぐ開発や便利な暮らしを止める
必要はない。でも、そんな中で
私たち一人一人にできることを
少しずつ積み重ねていきたいものです。
エアコンの設定温度を少し変える、
歩いて行ける距離では車は使わない、
たったそれだけのことで、
救われる命もあるかもしれません。

2019年6月1日 シロクマパンチ

参考文献

ホッキョクグマ: 生態と行動の完全ガイド
アンドリュー・E. デロシェール
東京大学出版会
2014-10-25